メンタル・ヘルス研究所日本生産性本部

うつ対策推進方策マニュアル(概要)

厚生労働省 平成16年3月25日発表

はじめに

誰でも時には気分が滅入ったり、孤独を感じたり、おっくうだったり、だるかったりすることがあるが、時間が解決することも多く、しばらくすると収まることがほとんどである。しかし、このような抑うつ的な状態が長く続き、うつ病になることがある。
一方、うつ病は抑うつ的な気分だけではなく、心や身体に様々な形で現れる。しかも、それがうつ病であることに気づくことが、本人にも家族やそばに一緒にいる人たちにも困難である。仕事や人間関係のせいとか、不眠や身体の病気のせいとか、自分自身の性格のせいとか思ってしまう。そのために、悩み苦しみ、ひきこもり、あるいは仕事につけないまま時を過ごしてしまう。時には死にたくなったり攻撃的にさえなったりする。
しかし、うつ病はきちんと治療することで回復できる病気である。うつ対策はまさにうつ病に対する気づきから始まる。このマニュアルは、住民がうつ病を知り、うつ病に気づき、うつ病に適切に対処できるように、地域保健活動の中でうつ対策に取り組む際の参考となるように作成したものである。

1.なぜ、うつ対策?

近年行われた国内調査で、一般住民の約15人に一人がこれまでにうつ病を経験しているにもかかわらず、うつ病を経験した者の4分の3は医療を受けていなかったことが示され、うつ病は決して一部の人々の問題ではないことが明らかになるとともに、その対応が適切になされていないことが示唆された。世界的にみても、世界保健機関(WHO)が行なった障害調整生存年(DALY)による疾病負荷の将来予測によると、うつ病が2000年では総疾病の第4位であったのに対し、2020年には第2位になると予想されており、今後も大きな健康課題になると考えられている。
しかし、うつ病は本人をはじめ家族や知人が適切に対処し、また、環境を整えることで、早期発見・早期治療ができると言われている。そのためには、地域において、住民の活動、相談や治療を行う支援機関の活動など、さまざまな取り組みが展開されることが求められる。都道府県・市町村は、行政サービスとしてうつ対策を行うとともに、これらの活動の「取りまとめ役」として大きな役割を担うことが期待される。

具体的には次のような目的を掲げ、うつ対策を行っていくこととなる。

  1. 住民がうつ病について正しく理解することができる
  2. 抑うつ状態にあることに自ら早く気づくことができる
  3. 周囲の人々が抑うつ状態にある人に気づくことができる
  4. ストレスが高い状態や、生き甲斐のなさ、社会的役割喪失などに、一人で悩まず、気がねなく身近で相談することができる
  5. 本人をはじめ周囲の人々が抑うつ状態を改善するための支援(相談、治療)を身近に得ることができる

2.うつ病を知る

(1)うつ病の一般的症状(別紙参照)

うつ病は、気分がひどく落ち込んだり何事にも興味を持てなくなったりして強い苦痛を感じ、日常の生活に支障が現れるまでになった状態である。こうした状態は、日常的な軽度の落ち込みから重篤なものまで連続線上にあるものとしてとらえられていて、原因についてはまだはっきりとわかっていない。
うつ病の基本的な症状は、強い抑うつ気分、興味や喜びの喪失、食欲の障害、睡眠の障害、精神運動の障害(制止または焦燥)、疲れやすさ、気力の減退、強い罪責感、思考力や集中力の低下、死への思いであり、他に、身体の不定愁訴を訴える人も多く、被害妄想などの精神病症状が認められることもある。(厚生労働省地域におけるうつ対策検討会作成の保健医療従事者マニュアル参照:略)

(2)発症の要因:危険因子

1)性別、年齢
女性は男性の2倍程度、うつ病になりやすい。うつ病が女性に多いことは、世界的な傾向である。男女差の原因としては、思春期における女性ホルモンの増加、妊娠・出産など女性に特有の危険因子や男女の社会的役割の格差などが考えられている。また、うつ病は一般には若年層に高頻度にみられるが、うつ病の経験者は若年層と中高年層の2つの年齢層に多く、中高年層にも心理的な負担がかかっている可能性がある。

2)その他の要因
つらい被養育体験、最近のライフイベンツ(離婚、死別、その他の喪失体験というようなストレスとなった出来事)、心の傷(トラウマ)になるような出来事(虐待、暴力など)がうつ病の危険因子として、また社会的支援がうつ病の防御因子として報告されている。うつ病の特別な遺伝子はみつかっていないが、遺伝を脳内の神経伝達物質の代謝や受容体の遺伝子多型によって説明しようとする研究が急速に進んでいる(保健医療従事者マニュアル参照:略)。

3)発生頻度
最近の国内調査では、DSM-W(米国の診断基準)による大うつ病性障害の12ヶ月有病率(過去12ヶ月間に診断基準を満たした人の割合)は2.2%、生涯有病率(調査時点までに診断基準を満たしたことがある人の割合)は6.5%、ICD-10(世界保健機関の分類)診断によるうつ病の12ヶ月有病率は2.2%、生涯有病率は7.5%であり、これまでにうつ病を経験した人は約15人に1人、過去12ヶ月間にうつ病を経験した人は約50人に1人であるという結果となった。(以下略)