メンタル・ヘルス研究所日本生産性本部

産業人のメンタルヘルスと企業経営−平成11年8月

  1. リストラ(従業員数の減少)は従業員のメンタルヘルスを悪化させる。
  2. 安定性の高い経営はメンタルヘルスの安定をもたらす。
  3. 「不安」に支えられている企業経営。
  4. 突出する若年層におけるメンタルヘルスの不調感。
  5. メンタルヘルスへの配慮は従業員の心の健康度を高める。

財団法人 日本生産性本部(亀井正夫会長)は、170万人を超えるJMI健康調査の蓄積を踏まえ、企業行動の証左である経営指標とその企業で働く人々のメンタルヘルスとの関係および影響のあり方を分析し、これからの企業行動とメンタルヘルスの方向を探るべく本調査研究(調査1:経営指標とメンタルヘルス、調査2:JMI健康調査継続企業とJMI年度平均との比較、調査3:年齢別比較)をおこなった。

調査方法

1. 調査1:経営指標とメンタルヘルス

経営状態が従業員のメンタルヘルスと関係があるかどうかをみるため、平成1年度(1989年度)から平成9年度(1997年度)にかけてJMI健康調査(メンタルヘルス調査)を、全社員を対象に2回以上実施した従業員1,000人以上の企業のうち、経営指標が得られた23社を対象とした。

経営指標として、企業の安定性は自己資本比率、収益性は売上高営業利益率と使用総資本経常利益率、成長性は5年間平均増収率、生産性は労働生産性と一人当り売上高、資本効率は使用総資本回転率を用いた。 また、売上高、営業利益、経常利益、従業員数を用いた。

メンタルヘルスの指標はJMI健康調査票の職場領域の9尺度(仕事の適応感、上司との関係、同僚との関係、帰属意識、負担感のなさ、変化への意欲、仕事の正確度、評価の満足度、将来への希望)と精神領域の21尺度(前うつ、抑うつ、発揚、軽躁、分裂気質、破瓜病的、妄想症的、粘着、発作のあること、爆発、自己顕示、被暗示、自己不確実、強迫、心気的、不安、劣等感、気分不安定、弱志、社会的無責任、嗜癖性)を用いた。 これらの経営指標とメンタルヘルス指標を1回目と2回目のJMI実施時点で求め、相関を求めた。

2. 調査2:対象企業23社とJMI年度平均との比較

調査1の対象企業が、どの程度のメンタルヘルスの改善が見られたかを把握するため、23社よりは圧倒的にサンプル数の多い、年度あたり約10万人のJMI実施全データと比較した。

3. 調査3:年齢別比較

年齢別にメンタルヘルスの状況を把握するため、平成8・9・10年度(1996、1997、1998年度)に実施したJMI健康調査全データのうち、管理職を除く一般職を、20歳、25歳、30歳、35歳、40歳、45歳、50歳、55歳、60歳で抽出し、男女別に集計した。

調査結果の概要

1.経営指標とメンタルヘルス

(1)従業員数: メンタルヘルス指標と相関のあったものは、従業員数増加率であった。 従業員数の減少は、上司と関係・同僚との関係が悪くなり、帰属意識が低くなり、仕事の負担感が増え、仕事の正確度が低くなり、将来への希望がなくなることと相関があった。 さらに無気力な傾向(破瓜病的)が増え、被害者意識(妄想症的)が多くなり、イライラとして怒りっぽく(爆発)なり、体の調子(心気的)も良くないと感じ、不安はつのり、仕事の手を抜くこと(社会的無責任)が多くなった。 従業員数は職場適応と精神の全般的な安定に相関している。

(2)経営の安定性: 経営の安定性を示す自己資本比率が高まると、イライラした様子(爆発)、自信なげな様子(被暗示、自己不確実、弱志)、心配事が気になる様子(強迫)が減るという傾向と相関がある。 但し、職場領域とは相関がないので自己資本比率はメンタルヘルスの安定に寄与する指標だが、職場適応を高めるものではないので衛生要因といえる。

(3)不安からの考察: 「不安」と相関する経営指標が多い。 特に売上高営業利益率、労働生産性、1人当り売上高、営業利益増加率が不安との相関が高い。

(4)経営の収益性: 経常利益増加率、使用総資本経常利益率とも、経常利益にかかわる指標との相関はなかった。 一方、営業利益にかかわる指標は売上高営業利益率、営業利益増加率であり、ともに不安と将来への希望と相関がみられた。

(5)経営の成長性: 5年間平均増収率が高まることと、気分が不安定になること、弱気(弱志)になることに相関がみられた。 職場領域での相関はなかった。

(6)経営の生産性: 労働生産性が高まることと不安が高まることに相関がみられた。 これ以外にメンタルヘルスとの相関はない。

(7)相関のなかったもの: メンタルヘルス指標のどれとも相関のなかった経営指標は、使用総資本経常利益率、売上高増加率、経常利益増加率であった。 →表1.経営指標とメンタルヘルス指標の相関(pdfファイル)へ

2.JMI健康調査継続企業とJMI年度平均との比較

(1) メンタルヘルス施策を継続して実施している企業は、厳しい環境にあってもメンタルヘルス度を高めている。

(2)職場領域では統計的な有意差はみられない。

(3) 精神領域では自己不確実、劣等感、気分不安定、強迫など、ほとんどの尺度でメンタルヘルス度が良い方向に変化している。


(上図をクリックすると拡大表示されます)

3.JMI調査年齢別比較

(1) 男女ともに年齢が若くなるにつれて、職場領域も精神領域も健康度が下がり、標準を下回っている。。

(2)高年齢になるに従い、職場適応度が高まり、メンタルヘルス度は高くなっていく。

(3) 特に若年層はほとんどの尺度で健康度が下がる。