メンタル・ヘルス研究所日本生産性本部

長びく鬱病とにせの鬱病 

(生産性新聞2003年3月15日号)

今日、職場での心の健康管理において最大の問題が「鬱病と自殺防止」であることは、人事・労務担当者だけでなく経営トップにも少しずつ浸透しているようだ。大企業の経営者も高級官僚も、鬱に陥れば自殺する。“自殺三万人時代”と言われ、自殺が他人事でないことだけは多くの人びとの身に沁みている。

自殺にはさまざまな原因があるが、共通して「自殺前症候群」と呼ばれる@孤独感A絶望感B前途への閉塞感――など一種の鬱状態を呈している。「几帳面で律義で仕事熱心で、何事もキチンとしていなくては済まない気配り人間」である前鬱性格、または「メランコリー親和型性格」の人が多いことも知られている。

自殺する気ではないだろうねと問いかけることは禁忌ではないが、「頑張れ」とハッパをかけてはいけないということも知られて来たようだ。そして、鬱病は「治る病気」であり、職場に完全復帰できるということも常識だ。

しかし、職場の人事・労務担当者の本音として、「鬱病の診断書が出たのでそのつもりで見ていたが、一向に治らない。職場に復帰したと思ったら、また診断書が出て休みはじめた。あれは怠け病ではないか」とか、「鬱病は“治る病気”だと聞かされたが、職場での対人関係も悪く、やる気がまったくないようだ。鬱病は始末が悪い」という声が聞こえてくることも少なくない。どうしたことだろうか。考えられる理由と対策は次の二つだ。

(1)鬱病は確かに「薬が効く、そして一時的な病気」だという側面がある。最近の発達した抗鬱剤の効果でその側面は軽快しても、復職したあと病前のポストを外されていたり、同僚や後輩が上司になっていたりで、それを覚悟はしていてもやはり「がっくり来る」ことがある。善意であまり仕事を与えないようにした結果、「自分は役立たずだ」という負け犬意識が生じることもある。病気で休んだ上にそうしたことが加わると、「無力感の学習」が行われてなかなか立ち直れない。

(2)実際には、統合失調症(精神分裂病)や境界性人格障害のような鬱病以外の慢性疾患の鬱症状であるか、またはいま一つ自分がその職場で働く腰が定まらないという「にせの鬱病」であることもある。医師が本当の病名を知っていないか、「とりつくろいの診断」として最近職場で多少理解が得られてきた「鬱病」と書いてしまうこともある。

(1)の場合は抗欝剤による治療だけでなく、「学習された無力感」を取りのぞき、本人の「考え方」を変えてもらうための「認知行動療法」を行うのが最近のやり方だ。(2)の場合は単に症状だけでなく、職場の実情や適応ぶり、本人の性格を考えに入れた診断治療の能力が必要だ。

いずれにしても、本人が個別に医師にかかり、診断書を持って来るというだけでは「長びく鬱病」の健康管理はできない。身体医学の専門医である嘱託産業医のほかに、産業精神医学にくわしい精神科医と職場の人事・労務担当者、カウンセラーが協力して当たれば、問題は見えてくる。「この鬱病は治らない」と投げ出してしまうのは考えものである。