メンタル・ヘルス研究所日本生産性本部

景気回復期のメンタルヘルス

(生産性新聞2004年7月25日号)

漸(ようや)く景気回復がはじまった。それが直ちに雇用回復につながらないのは雇用削減の時代に「リストラ」が一種のイデオロギー化して、企業収益の増加のためには、増益中の企業でも雇用削減を目いっぱいに行うことが経営者の手腕と決断だということに、少なくとも一部ではなっているからであろう。

その中で人減らしを行わずに不況を乗り切った昔風経営者の人間像が、これからクローズ・アップされてくることになろう。景気の回復は仕事量の増加をもたらすから、末端の職場ではいわゆるデイリー・ハッスル(日常のストレス)はそれだけ多くなる。これは日本生産性本部のJMI調査の実績が示すところだ。残業が増えることは超勤という形での増収につながるから、従業員には一時的にはむしろ歓迎されるかも知れない。それでもそれが限度を超えれば産業疲労の蓄積による心身症や、「燃えつき型リストラ鬱病」の増加につながるだろう。雇用削減時代の労使関係の変化で、仕事量が増えても苦情が言えないという環境が生じた。日本型労使関係の消滅ということで、従業員の側の企業に対する帰属意識の低下もJMI調査では示されているから、そうなると、かつて米国で見られ、日本ではあまり見られないとされた職場メンタルヘルス不全の3A、つまり@アクシデント(事故)Aアブセンティイズム(欠勤)Bアルコーリズムの増加が、わが国でも見られることになるかも知れない。

さらに労災認定基準の変化、従業員の健康管理を使用者責任とする判例の増加があるから、職場ストレスによる欠勤率の上昇の場合、これをさっさとお払い箱にするという労務政策を続けることは障害が多くなった。景気が回復すれば有効求人倍率の上昇、労働市場の需要供給関係の変化ということは起きざるを得ないから、今まで見られなかった形での労働市場の流動化、企業が「足元を見すかされた」形の少なくとも一時的、局所的な労働力不足は、これから経営の陥穽(かんせい)になるおそれは存在する。早目に手を打っておくにしくはない。

対策としては、@過労による燃えつきを防止するための労働時間の適正化、休養の確保、休憩時間を利用してのリラグゼーション、自律訓練法の導入。

A欠勤が長期化しないための心身症、鬱状態の早期発見、早期治療。社内報への鬱病・ストレスチェックリストの刷り込み、社内外の相談機関の広報などによって、「出来たら、早期に休み、年休を使って癒す」習慣を作る。

B企業に対する従業員の帰属意識を高めるために、いい意味での「日本型」企業風土の回復。とりわけ一人ひとりの従業員に人間的関心を持つことである。

Cその場合、最悪なのは従業員を侮辱し、いびるという「パワー・ハラスメント」である。たとえ、上司に受けがよくても、一時的に能率が上がっても、これをやるような管理者は企業に害悪をもたらすという認識を徹底する必要があるのである。